2024年4月1日付で新たに設置されましたフォレストGX/DX協創センター(FGDC)の初代センター長を拝命した福田です。どうぞよろしくお願いいたします。
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部附属演習林では、100年を超える観測・測定の歴史を持つ千葉演習林のスギ人工林固定試験地の毎木調査データや、生態水文学研究所の気象・水文観測データ、明治期から現代にいたるさまざまな時期の森林の様子を知ることのできる写真や施業記録、動植物やきのこの標本など、数多くの貴重なデータや資料を保有しています。そればかりか、現在もそれらの調査や観測を日々継続しています。
演習林の設置目的である森林に関する研究や野外実習のフィールドの提供や、演習林の教員自身の研究とは異なる、それらのデータの収集・整備は、多くの教員、技術職員、事務職員を擁する演習林の組織としての活動の大きな柱の1つとして行われてきました。演習林では、過去数十年にわたる定員や予算の削減や、短期的な研究成果のみを求める風潮に押し流されることなく、基盤的な調査を継続するとともに、過去のデータや資料をデジタル化して、画像やデータベースなどの公開を進めてきました。また、北海道演習林の林分施業法に代表される森林経営・保全の実地試験においても、衛星データやUAV(ドローン)によるモニタリング、タブレット端末を用いた電子野帳の開発など、技術の高度化、省力化も進めてきました。
こうした演習林が独自に行ってきた技術革新やデータのデジタル化は、この数年の間に森林の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」として、学内外の多くの人々の注目を集めることとなりました。それらの技術は、森林の二酸化炭素吸収・蓄積量を正確に把握し、木材をはじめとする再生可能な森林資源の循環利用による脱炭素社会を構築するという「グリーントランスフォーメーション(GX)」の実現に向けた技術的基盤となるものです。
また、演習林がこれまで力を入れてきた、アジア各国の大学演習林と連携した国際拠点形成や、地方自治体との連携協定にもとづく学校見学や市民教育への貢献、企業との共同研究などの対外的な連携活動の実績は、森林GXを国内外に社会実装していくための足掛かりとなるでしょう。
そうした社会からの大きな期待を受けて、演習林のフィールドデータ研究センターを発展的に解消して新たに設置されたFGDCは、森林GX/DXの研究と人材育成の拠点として、さらに産官学の連携による地域共創、国際連携の核として、持続可能な社会の「東大モデル」の構築とその実現に向けた大きな一歩を踏み出しました。
今後とも、皆様のご理解とご協力をお願いいたします。 福田 健二